すじこ(筋子)を知るための50のこと② 11-15
オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、話題を、国内の食品加工事業に絞ります。さらに絞って、テーマは「すじこ」。
まだまだ前半戦、さらにすじこの魅力を紐解いていきたいと思います。今回は感覚的な内容から文豪まで登場。ローカルフードの深みをのぞいていただけると嬉しいです。
では、さっそくまいりましょう。
⑪すじこに旬はあるのか
すじこはサケ類の卵から作られますので、親であるサケ類が収獲される時期=魚卵の収獲時期でもあります。日本ではサケ類の遡上(そじょう)は秋なので、一度も冷凍しないすじこを食べることができるのは、日本では秋ということになります。
ただ、実はわたしたちが製造販売しているすじこは、全て海外産の冷凍原料から作られています(2024年6月現在)。もう少し詳しく言うと、アメリカ産とデンマーク産です。
後者のデンマーク産については養殖サーモントラウトのすじこなので、季節を指す「旬」という概念ではないかもしれないですが、すじこが一番おいしくなる時期まで成魚を育てて収獲していることは間違いありません。
⑫「おいしいすじこ」とはどういうものか
おいしい、という官能的な基準に甲乙つけるのは結構難しいと思うのですが、ここは実際の商品を販売している、わたしたちの直販部門メンバーに聞きましょう。
質問はつまり「わたしたちの作るすじこの魅力はなんですか?」。ということになります。帰ってきた答えは2つ、
「くちどけ」と「かおり」。
・・・チョコレートの話ですかね?まあ聞きましょう。
1.くちどけ
前回の記事でもお伝えしたとおり、すじこは一粒ひとつぶの皮は未成熟で柔らかいため、粒と粒をつなぐ卵膜を一緒に加工します。
ご飯といっしょにすじこを噛みしめたときに、やや抵抗がありながらも、ひとつの「かたまり」としてすべての粒が弾けて、濃いうまみが一気に広がるのがおいしい、につながります。
「わたしたちのすじこはこの状態に近い」のだそう。
2.かおり
もうすこし平たく言うと「生臭みがない」こと。水産加工品であるすじこの加工は、良質な原料と、塩や醤油など調味液での調味と一定の期間寝かせる熟成からなります。となると、原料となる魚卵自体の品質がとても大事です。ここを重要視したわたしたちのすじこで生臭みを感じたことはない、といい切っております。
くどいようですが、味覚は千差万別なのでだれが食べても同じ感想にはなりません。しかし、多くの商品を扱い、試食して売ってきたスタッフのコメントなので、一定の経験はあります。そこを信用していただけるとありがたいです。
⑬続:おいしい食べ方
前回の記事で、すじこの食べ方は「ご飯と食べる」がポピュラー、炊きたてご飯のっけ もしくは すじこおにぎり、とお伝えしました。
で、中の人はどっちの食べ方に軍配を上げるつもりか、と聞かれまして。
うーむ・・・そもそもわたくし関東出身なので、東西に軍配を振り切れるような立場にないんですよモゴモゴ。
とはいえ、もちろん今では両方口にしているので、ではあつあつご飯のっけとおにぎり、それぞれの魅力をお伝えしましょう。
あつあつご飯のっけは、卵かけご飯(TKG)と魅力が近いです。炊きたてのお米の香りと、濃厚な卵と塩味のマリアージュ(おっとついついフランス語が)がたまりません。とにかくご飯が進むわすすむわ。
一方おにぎりは、冷えてまとまったご飯とすじこの食感がほどよく近づきます。この馴染みの良さ、噛んで同時にほぐれる心地よさが魅力です。さらに海苔の香りが添えられる、これがえも言われぬ美味でございます。
⑭売っている単位が、思ったより多い問題
そうなんです。スーパーなどで見かけても、本当はちょっと買えればいいと思ったこと、ありますよね。特にはじめて買うときには、やや高めのハードルと感じてしまうかもしれません。でも大丈夫、すじこはもともと保存食です。
すじこは、冷蔵庫のない時代から存在する食材です。かつては現在のすじこよりも常温での保存性を重視していたでしょうから、確実に塩分濃度は高かったはず。
しかし今は漬物だって干物だって、減塩の時代です。減塩と引き換えに、常温保存では足が早くなりがちです。ですが、現代には保存性を高めるために各家庭に冷蔵庫があります。さらに言うと、冷凍でも販売しています。これなら冷蔵保存よりもさらに保存期間を長くできますね。
すじこを買うときには、みなさん1食分だけ買ってくるということはあまりありません。単位の大きさにひるまず、清水の舞台から飛び降りるつもりで買ってみましょう。意外と舞台は、高さ50cm程度だったことがわかるはず。
そして、必要な分だけ冷凍・解凍して食べる、これでいついかなるときでもすじこを各ご家庭にストックできるということです。冷蔵冷凍庫ってすごい。
※保存方法・期間については、購入した商品によって異なりますので、ご確認ください
⑮太宰治も普段から食べていた(としか思えない)食材です
青森が輩出した文豪、太宰治。
『走れメロス』や『人間失格』で有名ですね。青森県の西側、津軽半島の中ほどにある金木町(現:五所川原市)のご出身です。文化圏としても、すじこが身近にある地域で幼少期を過ごしています。
私小説の名作『人間失格』の上梓からさかのぼること11年前、昭和12年(1937年)に発表された『HUMAN LOST』という作品の前半に「妻をののしる文。」という段落があります。穏やかじゃないですね。ここに、太宰はすじこを織り込んだ一節があります。「すじこ納豆」です。
ここではその段落の全体を読んで、太宰にとってすじこ納豆がどういう位置づけの食べ物なのかを読み解きたいと思います。ちなみに、全体でも1.2万字、原稿用紙にして30枚ほどの短編なので、よろしければ全文も読んでみるといいかもしれません。
中の人が読み解くには、妻を「ののしり」つつも、その裏側にある、太宰が考える理想の「妻との関係性・願望」について書かれているように思います。文章の最後にある「自信を以(もっ)て、愛して下さい。」あたりにその気配が濃いです。
また、文中にある「朝顔日記」は、歌舞伎・文楽・講談などで取り上げられる演目で、すごく省略して説明すると「両思いなのに、些細なすれ違いで人生が交わらないまま時が過ぎゆく悲劇を含んだ恋愛絵巻」です(省略しすぎてすみません)。これを「まことの愛の有様」のたとえとして挙げている太宰が、妻を一方的にののしるようなことはないと思うんですよね。
ちなみに、この作品を発表した時点では、太宰は結婚はおろか、翌年に出会う奥様と出会ってもいません。まあ、文学作品ですのでそこは置いておいて。
ええと、すじこの話をしているのでした。さらに抜粋すると、
先程の写真を再掲。「味の素®の雪きらきら降らせ」て、他食材も添えてみました。味も食感も、組み合わせとしてはすごくいいです。その地域で食べられている食材のベストマッチ。青のりもからしも、いい仕事してます。
またもや脱線・・・文章に戻りましょう。
文脈からすると、夫としての太宰が、自身の無欲を伝えるための比喩としてすじこ納豆が登場します。
前回の記事でも、すじこはいくらと比べて「ふだん着の食材 ケの食材」とお伝えしましたが、1930年代、すじこは今よりもはるかに安価だったそうで、間違いなくふだん着の食材です。今でも比較的安価な食材である納豆と合わせている時点で、そのことがよく分かるのではないかと思います。
というわけで太宰にとって「すじこ納豆」は、故郷の味でもあり、ぜいたく品でもなく、手の込んでいない「無欲な」料理、つまり(それこそが)ソウルフードだったのではないかと想像されます。
太宰ファンもすじこファンも、ソウルフード「すじこ納豆」、ちょっと食べてみたいと思いませんか。
しまった、太宰のことを語りすぎて、あっという間に文字数が増えてしまったので、今回はここまで。
まだまだ語り尽くせぬすじこの魅力、どんどんご紹介していきます!