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【社員インタビュー】青森の海と地域を「変えない」ことの価値。

オカムラ食品工業で働くプロフェッショナルが、自身の持ち場について語る社員インタビュー。
 
今回は、サーモンやいくら・すじこ・カズノコを製造する弊社工場の中でも、「排水設備」を担当するスペシャリスト、製造部の板谷輝星さんにスポットを当てていきます。

設備と工場、さらに後ろに見える津軽半島とともに。

PROFILE 板谷 輝星(いたや てるき)
2022年入社 / 青森事業本部 製造部

 1日あたりトン単位の原料が工場に運び込まれる。4月になれば、数時間前に水揚げされたばかりの青森サーモン© が大挙して押し寄せる。
 
そんな水産物の洪水を整然と、衛生的に商品に加工・包装・出荷しているのが製造部。青森市にある、わたしたちの食品加工工場にかかわる全工程を担うチームです。

工場の設備といえば、パッケージや冷凍などの機械設備や製造工程には欠かせないベルトコンベヤーを思い浮かべることが多いですよね。そんな中、今回のテーマは「排水設備」。何をしているのか、すぐには想像しにくいこの設備ですが、とても大事な役割なんです。


排水設備って?

―――では、板谷さんの仕事場を見せてもらえますか?
 
青森市にある第一工場と第二工場の間にある、タンクと配管がぎっしり詰まったこの設備、ここが私の仕事場となる排水設備です。

様々な種類のタンクがびっしり。タンクの後ろにもまだまだ設備が連なります

ほかの業種でもそうですが、水産加工の仕事にも水が欠かせません。
わたしたちの商品でいうと、例えば塩漬けになっている数の子を加工する最初の工程となる塩抜きでは、数の子を大量の水にさらします。

サーモンが運ばれるコンベアーには常に水を流しています。一日の終わりには機械や床の清掃を行います。いろいろな理由で水を使い、そして使い終わった水を流します。

一日の最後の仕事は、なんと言っても掃除です

―――確かに、思っている以上に水を使う場面も量も多いです。

流した水はそのまま捨てていいものじゃないですよね。油脂分や洗剤・調味液など、そのまま排出したら、自然環境に負荷がかかってしまう。残ったにおい(臭気)が気になることだってあります。
 
排水設備は、自然環境に負荷のない(自然の水にはない物質の量を、行政で定められた基準量を下回る)状態になるまで、水質を改善するための場所です。

水質の改善、具体的には

―――設備を使って、具体的にはどんなことをしているのですか?
 
自社設備の中では主に、溶け込んだ物質を「分解」することで水質を改善しています。具体的には、基準以上の量の物質を分解してくれる微生物と空気(酸素)を貯水槽(ばっ気槽)の中に送り込んで、活発に働いてもらいます。

ばっ気(ばっき:曝気)とは
空気にさらすこと。特に、下水処理で、微生物が有機物を分解するのに必要な酸素を供給するために、空気を吹き込んだり攪拌(かくはん)したりすること。気曝きばく。

デジタル大辞泉より

写真にある穴の中で水と空気が混ぜられています。この下にばっ気槽があります。

ばっ気槽の様子を見るための小窓(のぞき穴)

―――少しはニオイがすると思っていましたが、全くニオイがしない。

常に酸素を送り込む(ばっ気)ことで、水の中の物質を腐敗させる微生物に働いてもらわず、分解してくれる微生物が活発になる環境を作っています。この状態を作ってあげれば、
腐敗をおこす微生物が活性化しない
→分解したときの副産物(ニオイ)を出さない
→腐敗臭がない、ということになります。

ここのところ、この水の状態がすごくいいんですよ。泡が少なくて、水がサラサラしていて。結構理想に近い(楽しそう)。

―――お、おぅ・・・

あー、まあそういう反応になりますよね。結構自己満足なんですけど、でもこの状態になるのに色々考えてここ2週間ほど調整してきたので、とにかくうれしいんですよ。

―――調整、というと、酸素を送り込む以外にも、活発になってほしい微生物のためにすることがあるんですか?

温度や酸素濃度、分解したい物質量などを毎日検査して計測しながら、それぞれの数値の「ベストバランス」を作るために酸素を追加したり、酸性・アルカリ性の中和剤や消泡剤を入れたりします。

―――ぬか床育ててるみたいなイメージですか?

微生物を育てているという点では近いかもしれません。ぬか床がいい状態にできている時って、漬けている人にとっては嬉しいじゃないですか。わたしはぬか床作ってませんが。

―――要は「推し」の微生物が元気ってことでいいですかね?

ちょっとずれてるか気もしますが、まあ言いたいことはあってます(笑)


「分解」と「腐敗」の違い?

そもそもの話ではありますが、「分解」と「腐敗」って、何が違うのか?
発酵と腐敗についてであれば、農林水産省のホームページによると、こんなふうに書いてあります。

発酵とは、食品に微生物が増えることによって起こる変化のことです。それを発酵現象といいます。そして腐敗も、食品に微生物が増えることによって起こる変化のこと。どちらも微生物の活動ということになります。

では、発酵と腐敗、いったい何が違うのか。それは
関わる微生物の種類などではなく、人にとって有害か否かの違いです。

―略―

実は発酵と腐敗の線引きは難しいところなのですが、一番大事なことは人にとっての安全性です。微生物が増えて変化した時に、安全性が保たれていることが発酵の第一条件です。

「発酵」の不思議:農林水産省:農林水産省 (maff.go.jp)

「発酵と腐敗」という対比での説明は、食べ物の話だからですが、これを水質改善に置き換えて考えてみましょう。
微生物の活動の結果「有益か有害か」の違いで判別するとすれば、
・食品において「発酵」は有益
水質改善において「分解」は有益
どちらにとっても「腐敗」は有害
ということになります。

腐敗が水質を悪化させたり、ニオイを発生してしまったら、川にも海にも、工場の近くにお住いの方々にも悪影響です。工場があっても、ないのと同じ気持ちで暮らせなかったら、それはやっぱり有害ですよね。

水質改善を行う水にも種類がある

 ―――水質改善する水は、工場から出てくる水以外にもあると聞きました。
当社では、工場内で流された水とは別の方法で貯めてある水が2種類、合計3種類の水があります。ひとつは血水(ちみず)、もう一つは調味液です。これらは工場排水とは別のルートで集められます。いずれも含有する物質が多い(濃度が高い)水です。

水質改善を行う水は以下の3種類がある
①工場排水
 塩抜き水・コンベアーに流した水・掃除で使った水など、濃度の低い水
②血水(ちみず)
 サーモンの水揚げの際に、血抜き処理を行ったサーモンの血液が多く含まれた水。青森県今別町・深浦町から、水揚げされたサーモンの冷却水・氷と一緒に青森市の工場に運び込まれている
③調味液 
 いくら・すじこ・かずのこなどの味付けのために漬け込んだあとの廃液。塩分・糖分などが高い。


写真の左側の白いタンクに③のうち塩分の低い(糖分の高い)調味液、右側の白いタンクに②血水、奥の丸い黒いタンクに③のうち塩分の高い調味液をためています。
②血水については、貯めている間に気温が上がると腐敗して臭気が出るので、オゾンガスを投入して腐敗を防ぎながら、①工場排水と少しずつ混ぜて一緒に分解しています。
③調味液は産業廃棄物として委託先にお渡ししています。委託先では、糖分の高い調味液を発酵させてバイオガスを作り、さらには発電をしていると聞いています。
 
―――それは知りませんでした。
これも環境負荷を考えてのことですね。当社では、バイオガスを作っている青森県内と秋田県の委託先に調味液の処理をお願いしています。

水質改善で働く設備たち

―――他の設備も見せてください。工場見学っぽい。

これは、ばっ気槽に空気を送り込むポンプ「ブロワー」です。写真は旧式のブロワーですが、半年前にコンパクトかつ送気能力の高いブロワー設備投資を提案し、導入したばかりです。

「旧式」だけあって、もともとの色といいホコリといい、味が出てる

微生物の分解に必要な時間が経ったら、酸素量や温度、残存物の量などが行政基準をクリアしているかどうか、毎日チェックしています。当社の工場では最低16時間以上のばっ気・分解ののち、4時間以上沈殿させてから上澄みだけを排出します。

―――沈殿した固形物はどうするのですか?

沈殿物のことを汚泥(おでい)と呼んでいます。汚泥を脱水機に入れ、さらに水分を減らします。分離した水分はばっ気槽に戻し、再び分解を行います。固形物は産業廃棄物として、委託先に引き取っていただいています。

異常値を検知する―モニタリング

―――想定外のことが起こることはないのですか?

例えば今日10tのサーモンを加工・出荷したとしたら、過去に同じ量のサーモンを加工したときには
・どのくらいの水を使ったか、その日の気温はどうだったか
・その際に、どのくらいの微生物と酸素を使ったか
など、過去の記録と突き合わせて大きな違いがないかどうかも見ています。

これまでの記録と、数値に大きな違いがあるということは、想定外のことが起こっている、ということです。「異常値」です。

近隣にお住まいの方々に「危険な排水が流れてしまいました」とお知らせするようなことは絶対にあってはならない。流れた先の陸奥湾には全国・海外に出荷するホタテも住んでいる。だからこそ、前段階で異常値に気づくようにして、対処します。

工場がそこにあったとしても、近隣にお住まいの方にも海の生き物にも、何も変わらないことが一番大事なんです。排水が原因で、日々の生活を「変えない」ことが、排水設備と私の仕事です。

臭気を水に溶かして排出する脱臭装置。排出される水からも、臭気は全くありません

一年間を通して定期的に、行政や取引先への報告義務や訪問・立ち入り検査もありますが、基準は「誰かに調べられるから」ではなくて、「もし自分が隣に住んでいたら」です。自分事にすることで気持ちを引き締めるようにしています。

仕事の魅力について

―――以前の職場でも、排水設備の管理担当をしていたそうですね

前職で、9年間ほど排水設備の担当をしていました。目に見えない微生物の働きを計器・検査でモニタリングして、水質をコントロールするこの仕事に魅力を感じてハマりました。検査値を見て、送気量をこのくらい増やせば水質はもっと早くに改善するのでは、といった仮説を立ててうまくいった時は、代え難いうれしさがあります。

ばっ気槽内の水量を正確に把握するため、
改善前の水を送り込むパイプの中間についている「流量計」

―――排水設備の仕事の魅力って、ズバリなんですか?

自分で言ってしまうのもアレですが、「縁の下の力持ち」となるインフラ設備の役割が気に入っているんです。
 
同じチームの製造部メンバーは食品工場内が主な仕事場なので、勤務する設備も役割も違う私の仕事は、部署内であってもわかりにくいと思います。仕事の中身をよくわかっている人は、現メンバーでは、前任者であり上司の木村さん(現:第一工場長)くらい。
 
この仕事や私が目立つ局面って、なにか「事故」が起こったときなんです。平常運転で誰も気に留めない、当たり前に排水設備が稼働していることが、実は一番いい状態なんです。
 
売上や利益を生む仕事ではないですが、少しでも効率よく確実に稼働できるよう、新たな設備投資についても入社以来積極的に提案するようにしています。詳しい内容は企業秘密なので、ここでは言えないのがもどかしい。
 
―――先ほど詳しく聞きましたが、インタビューしている中の人にとってももどかしいです(笑) 言いたい!
 

排水設備の「これから」

―板谷さん入社から2年の間にも、サーモンの出荷量も排水も激増です
 
そう遠くない将来に、いまの工場の生産・排水能力が上限に達することはありえます。会社としても、リスク分散のためにもこの工場以外の生産拠点がある方がいいですよね。そうなったら新しい拠点の排水設備も、自分が担当することになるのかな。忙しくなるな(笑)

排水処理は、生産したり排出する物質や周辺環境、例えば気温によっても処理時間や工程が変わります。やることは少しずつ変化するかもしれないけれど、排出した水が周囲を「変えない」ことがゴールなのは変わらないです。これからもこのインフラ設備の番人として貢献できればと思っています。

編集後記

板谷さんが入社する前は、私達の会社に排水設備専任の担当はいなかったと聞きました。2023年9月に上場し、より一層の社会的責任が求められる企業として、排水設備の仕事が好きでたまらないという板谷さんとの出会いは、会社にとってもハッピーなことだったと思います。

工場排水という言葉にはあまりいいイメージを持たれない方もいらっしゃるかも知れませんが、「変えない」ための取り組みを積み重ねる職人の真摯な日常に、敬意を感じます。

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