すじこ(筋子)を知るための50のこと⑤37-45
オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、話題を、国内の食品加工事業に絞ります。さらに絞って、テーマは「すじこ」。
「50のこと」まであと少し。第5回は、公式X(旧twitter)で情報収集した、すじこ民みなさんのニーズを集めてみました。とはいえ、すじこ初心者さんへの基礎的な内容も盛り込んでいます。すじこ大好き「すじこ民」な方も、すじこを食べたことのない初心者の方も、楽しんで読んでいただければと思います。
では、さっそくまいりましょう。今回も、わたしたちが作っているすじこに絞って話を進めていくため、すじこ業界全体からすると偏った内容になってしまうかもしれませんが、共通している内容もありますのでご容赦ください。
㊲一年中すじこを買えるのはなぜ?
原料となる腹子の収獲時期が「旬」となることは既にご紹介しました。ではなぜすじこは1年を通して購入できるのか。
そもそも、すじこは塩漬けの魚卵、保存食です。太宰治が幼少期に食べていた頃よりもっと昔から、すじこは1年間を通して食べられる食品でした。
すべからく、食品保存は、腐敗を回避するために大半が「乾燥・塩蔵・発酵」の3つの手段を用います。すじこの場合は、ある程度水分を抜く(乾燥)ことと、主に塩蔵で保存性を高めています。熟成時間をとって、調味液とすじこの味をなじませていますが、微生物の働きを利用した発酵はさせていません。
※「腐敗」についての定義はこちらからご覧ください。
昔の塩蔵品は、いまからすると恐ろしく塩辛かったのです。秋田で「ぼだっこ」と呼ばれる辛口の塩鮭しかり。ただ、現在のすじこは、そこまでは塩辛くありません。おそらく昔のすじこは、常温で年間保存するために、もっと塩辛かったはずです。
㊳「現代すじこ」は塩辛くない?
梅干しや塩鮭など農産物・海産物を問わず、「現代保存食」は、おしなべて塩分濃度が低いですね。健康志向もあり、現代では塩辛い食品はあまり歓迎されない傾向です。また、おいしさよりも塩気が先立つと、本来の食材の魅力が伝わりにくくもなります。
かつての塩辛い保存食が、美味しい食品として流通するようになったのは、なんといっても冷蔵・冷凍技術の向上がカギです。塩分濃度を上げなくても、なんなら塩分に頼らなくても、低温で保存すれば「劣化の時計が止まり」ます。
あらゆる食材は冷凍流通され、小売店で解凍され、または冷凍のまま販売されています。冷凍食材を口にしたことのない人は、現代の日本ではごくわずかでしょう。それほどに冷凍技術は向上し、すじこを含むあらゆる食品の保存性を高めています。
冷やすときには細胞膜を壊さない急速冷凍技術が、その後の保存に関しては、同じ低温のまま温度変化なく冷凍しておけることが重要です。結果、塩気と食材本来の味のベストバランス!のすじこを製造・販売できるのです。
㊴品質の良いすじこ=時間と温度が大事
美味しいすじことは?という質問に対して「品質のいいすじこ」とはなにか、という話と捉えて書きます。品質を決めるのは、タイトルにあるとおり「時間と温度」です。なるべく短時間での加工調味と、劣化しない条件の保存が重要です。
すじこ作りでいちばん重要なのは「原料」。なにしろ、すべからく水産物は劣化の早い食材。水揚げした瞬間から、品質の劣化は始まります。そのため、なるべく早く調味加工もしくは冷凍冷却をおこない、劣化の時計を止めます。時間との勝負です。
次に重要なのが「流通上のコールドチェーン」。収獲から食品加工工程までの間、一定の冷凍温度をキープすることです。
わたしたちのすじこの原料は、現在は100%海外産、アメリカとデンマークの腹子です。そのため、原料は収獲後すぐに凍結され、青森の工場に運ばれます。調味工程以外では常に低温のまま保存し、ここでも劣化の時計を止めます。調味加工の詳細は、前回お伝えした工場潜入編をご覧ください。
冷凍可能な、ほぼすべての水産加工品のあたりまえを話してみました。この点において、すじこも例外ではありません。
㊵買う・食べる側でできることはこれ
すじこメーカーとしてできる品質向上についてはこれまで読んだとおりです。では、買う側がよい品質のまま、つまり「商品を解凍してから口に入るまでの時間」を短くするにはどうすればいいのか。
冷凍保存した食品は、解凍した瞬間から劣化が始まります。これはすべての食品で避けられないことです。
すじこ文化圏となる新潟・東北・北海道なら、小売店に行けば解凍して間もないすじこが買えるでしょう。すじこ購入人口がほかエリアに比べて圧倒的に多いため、「商品の回転が早い」。ですが、文化圏外となる主に西日本で、となると話は別です。
大事なのは、「見つけたらすぐ購入!すぐ冷凍庫で凍結!」です。食べたい分だけ解凍すれば、品質を落とさないまま食べることができます。
ほかにも「見つけたらすぐ購入!」の大事なところは、POSデータ(購買データ)に履歴を残すこと。あたりまえの話ですが、小売店さんは、売れない商品を発注しません。あなたがすじこを買った購買データこそが、次また行った時に「すじこあった!」となるためのポイントです。
㊶近隣の小売店にすじこがなければ
となると、EC(通販)で冷凍便で直接お届けするのが一番商品の劣化を防げます。ただ、昨今の物価高・円安を反映して、送料が高い・・・ですよね。
送料自体は、適正な価格のはずです。宅配便を運んでくださる事業者みなさんには頭が上がりません。が、やっぱり個別配送となると、小売店で買うより高くなります。
ただ、メリットもあります。それは「冷凍のままご自宅へ届く」=劣化スピードが遅いということ。一般的な小売店では解凍して売っているので、劣化の時計は進むのを避けられません。
ちなみにわたしたちの直販ECで購入し、冷凍便で届いたすじこを未開封・冷蔵庫に入れたまま解凍すれば、解凍を始めた日から14日間はおいしくいただけます。昔より減塩になったとはいえ、冷蔵庫に入れてさえあれば結構日持ちするんですよ。
※他のメーカーさんのすじこであれば、購入したお店かメーカーさんにお尋ねください。
㊷日本以外でも食べられているのか
イクラについては見当たります。そもそも「イクラ」(魚卵全体を意味する)という言葉自体がロシア語です。しかし、すじこについては、海外での食文化、見当たりません。すじこに該当する外国語の単語も見当たりません。成熟卵は食べるが、未成熟卵は食べない、ということのようです。
わたしたちの長年の取引先、いまはわたしたちのグループ会社となっているデンマークのサーモン養殖事業会社では、30年以上前に、すじこの原料となる未成熟の腹子を買い付けようと商談に及んだところ「未成熟の腹子は捨てている」との話だったそう。「マグロのトロは数十年前までは誰も食べずに捨てていた」というエピソード並みのパンチ力がありますね。
サケ類のもう一つの原産地となるベーリング海峡周辺の食文化の文献をあたってみましたが、サケ類を獲って食べていた、という記述にはあたるのですが、腹子を食べていた、という確証のある文献まで至りません。ましてや、未成熟卵となると、なおさら定かではありません。
㊸日本でも外国でも、クマはすじこを食べます
他動物も含めたすじこ食文化?といえば、クマはサケ類を獲って食べます。昭和世代の方なら、北海道土産の置き物のヒグマが鮭をくわえている姿を想像するのではないでしょうか。
日本で魚をくわえる2大動物といえば、ヒグマの木彫りか、サザエさんが追いかけるネコと相場は決まっています。
しかし、実際のクマの狩りからするとこのイラストのようにはかぶりつきません。腹側からかぶりつきます。なぜなら、一番栄養とカロリーが豊富な腹子から食べる。なんなら身は食べません。ぜいたくですねー。
㊹すじこの滋養について
ヒグマの話から転じて、人間が食べるのにも、すじこは栄養価が高いということになります。全ての魚卵がそうですが、卵には、孵化(ふか)した直後から稚魚になるまでの栄養が詰まっています。イクラ・すじこについても、ほかの食品よりも脂質は高めです。美味しいものには、脂質はついて回りますよね・・・
しかし、魚卵といえば、のイメージのひとつ、痛風の引き金となる物質「プリン体多め」については、すじこはみなさんの想像を良い方へ裏切ります。
100gあたりのプリン体含有量が、魚介は軒並み100mg超え、明太子は159mg、食肉・魚介含め肝臓(レバー)は200-300mgを叩き出す中でのすじこさんは、
16mg。
大丈夫、気にせず食べましょう!
参照)公益財団法人 痛風・尿酸財団ホームページより
㊺すじこの栄養について
今度は栄養について。
アスタキサンチンって聞いたことはありますか。サーモンの身と腹子をサーモンピンク色に染めている物質です。身の色が有名ですが、腹子についても同じアスタキサンチンがあの色を作ります。つまり、イクラもすじこも、赤いのはアスタキサンチン由来です。
シンガポールでは、アスタキサンチンの抗酸化作用がとても認識されており、このことからサーモンが大人気なんだそうです。
また、オメガ3脂肪酸であるDHA・EPAも豊富です。いくらとサーモンの身についても同じことが言えるのですが、すじこについても例外ではない、という話でした。
あっという間に45まで来ました。50までもう少しですね。