すじこ(筋子)を知るための50のこと⑥【完結】 46-50
オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、話題を、国内の食品加工事業に絞ります。さらに絞って、テーマは「すじこ」。
「50のこと」も最終回、ついにフィナーレです。これまで書いてきた45個の内容を振り返り、まとめて「すじこの過去・現在、そして未来」について語ってみたいと思います。
㊻すじこは進化した 保存性
すじこはもともと「常温保存を前提にした塩っ辛い保存食」だったことはこれまで書いたとおりです。太宰治が食べていたすじこも、間違いなくそうです。
しかし、食品全般に大きな影響・改善をもたらした「冷凍技術の発展」が、すじこにも大きなインパクトを与えました。
ポイントとなる技術は主にふたつあります。この技術によって、以下3点について、大幅に改善されました。
・鮮やかな色(食欲を増進する見た目)
・水産品特有の、いわゆる「生臭み」のない品質
・栄養素
の変化・劣化をかなり抑えられるようになりました。
技術その1.保存期間の向上=超低温冷凍
いろいろ省略してお伝えすると、マイナス40℃以下の保存温度下であれば、凍結後間もない商品・原料とおよそ1年後のそれと比較して「品質劣化の時計をほぼ止める」ことができます。1年後にはまた旬の時期が来て、冷凍在庫が新物に入れ替わる、という計算ですね。
これはすじこだけでなく、マグロやイカ・タコのように、現在世界中から調達している水産物にあてはまる冷凍保存技術のようです。
技術その2.品質を保った冷凍=急速冷凍
一般的に、食品内の水分が氷に変わるのはマイナス1℃からマイナス5℃の間のため、この温度帯をいかに短くして凍結させるかが大事です。時間を短くすることで、凍結する際の氷の粒の大きさをなるべく小さくできます。小さな氷粒で凍結し細胞の破壊を防ぎ、解凍したときのドリップ(エキス)が出る量を減らせるようになりました。
冷凍技術により、「品質劣化の時計の針」を遅くできるということは、水揚げからすぐに冷凍設備さえあれば、原料となる腹子の水揚げから加工工場、加工工場からお客さまへの距離がいかに離れていても品質を落とさず運べる、ということになります。
すべからく食品に言えることですが、冷凍技術の進化は、世界中から原料を調達できるようになった、ということにほかなりません。
㊼すじこは進化した おいしさ
冷凍技術によって品質が落ちなくなったということは、
・微生物由来の劣化(腐敗)がほぼない原料(腹子)や製品(すじこ)を
・一年中貯蔵が可能になり
・加工の際に過剰な塩分を必要とせず
・コールドチェーンで品質を落とさず小売店やレストランに納品可能になり
・小口単位でも、冷凍宅配便でお客さまに直接お届けできるようになった
つまり、ベスト品質のまま、生活者一人ひとりの口に入るまで冷凍・冷蔵
しておけるようになった結果、ようやく
すじこっておいしい!
につながったのです。鮮度の高い水産品ならではの、素材自体の味を感じられる、臭みのない「透明感」、味の邪魔をしない適度な塩気。間違いなくすじこはおいしく進化しているのです。
㊽これからもすじこを食べ続けられるのか
温暖化の影響もあり、いま日本近海では天然サケ類の漁獲が減っています。今後も続くであろう世界的な温暖化は、サケ類にとって快適な海域が減ることを意味しています。
当然のことながら、天然原料を活用しているすじこにとってもダイレクトに影響がでます。わたしたちが原料を調達しているアメリカ(アラスカ)でも、温暖化の影響が今後どのくらい出てくるかは未知数です。
一方、世界中のサーモン養殖量(身を食べる用・腹子収獲用 両方を含む)は、1990年から2021年のあいだで7倍に増え、天然漁獲量を大きく上回るようになりました。
養殖のいいところは、安定した品質・価格の原料を手に入れられるところです。結果、リーズナブル(価格に見合う価値のある)なすじこを、安定した価格で作り続けられるようになります。すじこを買って食べるみなさんにとっても、毎年価格が乱高下することがないのは、安心に繋がりますよね。
㊾これからもすじこは愛され続けるのか
先日とある機会があり、青森県の高校生たちに、わたしたちの事業内容を説明する機会がありました。
パワポの資料を小脇に抱えて会場に乗り込み、ここぞとばかりにサーモン養殖のあれこれを話してきました。すじこと違い、サーモンは養殖(原料生産)・食品加工を青森県内で行っているため、高校生にとっても「自身が住む県の産業」として自分ごと化しやすい食材だからです。
とはいえ、すじこも少しはPRしておこうと思い、会社説明の最後で見せたスライドがこちら。
この情報、「50のこと」としてすでにお伝えしているので、読者のみなさんにとっては「ふむふむ」といったところでしょうが、高校生、びっくりしてました。「全国どこでも食べられていると思っていました」の声、顔を見合わせる生徒たち。これまた地元出身の研修実習生の先生までもが「え、そうなんですか」という反応。
「ふだん着の食材」として家庭で食卓にすじこが供される青森県ならではの、微笑ましく感じる反応でした。
同時に、この反応こそがローカルフードへの愛をはぐくむ土壌を垣間見たように思うのです。
子どもの頃から食卓に並び、あるのがあたりまえの「ふだん着の食材」として記憶に残る。そして、第三者から「あたりまえではない」事実を知った際に、「文化として誇りに思える」かどうか。すじこの語り部が青森・北日本から全国・世界へ、過剰な「えこひいき」・「偏愛」をもって発信してくれるかどうかにかかっています。
これさえあれば、すじこの未来は明るいな、と。
㊿「青森・北日本のローカルフード」の枠を超え全国・世界の食材に飛び出せるのか
唐突ですが、日本国内で最も多く製造されている漬物は、数ある日本の漬物のうち、「キムチ」だそうです。
他国の食文化・料理が、別の国の人気ランキングで1位になることはよくあることです。日本ではラーメン・カレーなど、発祥の国での食べられ方とは変化して愛されていることも多いですね。
アメリカで人気の、このシリーズでも紹介したサーモンのお寿司、フィラデルフィア・ロールしかり、です。アメリカだけでなく、サーモンのお寿司はわたしたちが事業展開している東南アジアをはじめ、大人気です。
キムチの場合は、発酵食品としての健康・美容などに資する特徴を持っていますが、すじこにもサーモン同様のアスタキサンチンやオメガ3脂肪酸が含まれています。人気になる要素はそろっている、と言ってもいいでしょう。
先日、タイのバンコクのおにぎり屋さんで、すじこおにぎりがタイの現地の方にも人気、というXでの投稿を見ました。青森県民が日本を飛び出し、タイで巻き起こした局地的な現象(これぞ偏愛のなせるワザ!)ですが、いくらだけでなく、すじこが「おにぎり」というトレンドに乗っかり、魅力的な食材・日本の食文化として受け入れられている、ということではないでしょうか。
オカムラ食品工業公式Xアカウントでも、すじこに関する投稿にはいいね!やリポストがたくさん寄せられます。本当はほかジャンルの投稿にも同じくらい、いいね!がついてほしいのですが、すじこ投稿に関してはべらぼうに反応がいいんですよね。
これこそが、すじこが青森を中心に北日本で熱烈なファンがいる証拠じゃないかと感じています。
noteしかり、Xしかり、メディアのニュースももちろん、あらゆるところですじこの魅力を、わたしたちだけでなくポジティブに発信していくことで、地域・季節・宗教などを超えて愛される食品になる、と中の人は信じています。だって、本当に美味しいから。
みなさんのすじこへの熱意がランキングを変えるんです。あなたの一票・一投稿が日本を、世界を変えます。政治家のような説得っぷりです。
おわりに
というわけで、「すじこ(筋子)を知るための50のこと」はこれにて完結です。すじこに関してもっと知ってほしいことがある!などご意見がありましたら、公式Xアカウント宛に教えていただければうれしいです。
(2) オカムラ食品工業(@okamurashokuhin)さん / X
いただいたご意見内容次第では、「番外編」など続きが書けるかも知れませんので、それはそれで中の人的には楽しみにしてます。
長編シリーズにお付き合いいただきありがとうございました!サーモン養殖のシリーズ「青森サーモン®養殖ダイアリー」ふくめ、ほか記事も読んでくださいねー。