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最先端の給餌船を津軽海峡に導入!青森サーモン® 養殖ダイアリー ③バージ船

オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、サーモン養殖事業にスポットをあてて、四季折々のイベントを追いかける「青森サーモン® 養殖ダイアリー」。
 
今回は、わたしたちのサーモン海面養殖業務にいまや欠かせない存在、バージ船についてお伝えします。

青森県今別町の沖合に浮かぶ「バージ船」

バージ船ってなんですか?

そもそもバージ船、耳になじみのないワードですね。

バージ船は英語では”feed barge”と言います。”feed”はエサ、“barge”は平底の運搬船のことです。「艀(はしけ)」とも呼ばれます。エンジンがなく、自走しません。移動するときには、エンジンのついた船で引っ張ります。

なので、鉄道でいうと、電気機関車に対する「貨車」をイメージするとわかりやすいでしょうか。

WEBで画像検索「バージ船」でググってみても、川で荷物が運搬されていたり、巨大なクレーンを載せて運んでいたりと、まだまだ養殖用のバージ船は検索上位にはヒットしません(ぐぬぬ)。もっとメジャーな存在になってほしいです。

サーモン養殖におけるバージ船とは、エサやりに機能を特化した「給餌船」のことを指します。
ネコちゃん用にも餌やり器がありますよね。あの機械でできることって、
・時間に合わせてエサやり開始・終了
・餌をあげた時間や量を記録
・カメラを遠隔操作して、様子がWEBでも見られる(高級機種限定?)
こんな感じではないでしょうか。
バージ船は、その巨大装置版だと思ってもらえると、ざっくりイメージしてもらえるかと。

船体には、わたしたちの養殖事業グループ会社「日本サーモンファーム」ロゴが光ります

わたしたちは2022年12月に、青森県今別町の海面養殖場に、日本ではじめてバージ船を導入したサーモン養殖事業者です。
導入の目的は、事業の規模拡大と生産性アップ=効率化です。リーズナブル(価格に対して価値のある)なサーモンをみなさんにお届けするのに、とても大切なことです。
 
しかし、ファーストペンギン的な設備の導入・安定稼働までには、お察しの通り多くの試行錯誤が必要でした。が、「いいコト」もたくさん起こりました。そこ、詳しくご紹介します。

基礎学習:今別町と津軽海峡

その前に、まずは青森県今別町ってどこ?からいきましょう。青森県の地図でいうと、北に突き出た東西2つの半島のうち西側の津軽半島の先端、赤い点のあるところです。青函トンネルが本州側で地下に潜りはじめるところです。

サーモン養殖のいけすとバージ船は、今別の沖合約1kmに固定されています。写真で見える直径40mの「輪っか」が、サーモンが水揚げまで暮らすいけすです。いけすと同様、バージ船は一度固定したら1年中ずーっと海の上で過ごします。

いけすとバージ船 海面養殖場全景

試行錯誤:2つの壁「英語と津軽海峡」

サーモン養殖の先進国は北欧や南米チリです。圧倒的な生産量に対し、生産性向上(機械化・IT化)もこれら先進国で進化・洗練されています。
これまでの記事でもご紹介しましたが、わたしたちのサーモン養殖に導入する設備のご多分に漏れず、バージ船も先進国で導入されている海外製です。

使いこなすための最初の障害は、毎度のことながら言葉の壁です。
装置・機器とそのための取扱説明書はすべて英語です。また、後ほど紹介しますが、設備を操作するためのソフトウェアも、もちろん英語です。
 
また、地図を見て、その先の北海道を思い浮かべるとわかるとおり、ここは「津軽海峡」です。
写真のように波立たない日もありますが、養殖場のある入江から5キロ先、海峡が狭くなる龍飛崎の沖では、潮の流れの早い夏場は潮流6ノット(時速11キロ弱)を超えます。秋には台風の襲来、冬の海水温は平均10℃を下回ります。

冬のいけす。波こそ立っていませんが、見るからに寒そうでしょ

北欧にはない気象条件の中で、バージ船を使いこなすには、ここでは書ききれないくらいの試行錯誤がありましたが、運用がスタートした後の果実は素晴らしいものでした。
具体的に、導入してよかったコト、以下6点ご紹介します。

①いつでもエサやりができる

バージ船には「自動給餌機能」がついています。ちょっと想像がつかないと思うので、写真を見ていただきましょう。

バージ船の舳先(へさき)から海に向かって、黒いホースが伸びているのがわかりますか?ホースが、それぞれの「輪っか」いけすに繋がっています。

バージ船にあらかじめ山ほど積んだエサを、圧縮空気で少しずつ送り出し、ホースを伝っていけすのサーモンまで届けるのです。バージ船からいけすまでの距離は、最大で500m。かなり遠くまでエサを吹き飛ばすことができます。

イメージはこんな感じ。
黄緑色がバージ船、赤いホースを伝って、青いいけすまで届けます

海が穏やかな日を選んで、バージ船までエサを積み込みに行きます。これさえできていれば極端な話、台風の日でも、船を出して人力でエサまきをしなくてもエサやりはできます。毎日決まった時間に「計画的に」エサやりができるので、サーモンがお腹をすかせることもありません。すごくないですかこれ。

②陸上からエサやりができる

圧縮空気でいけすまでエサを送り込む操作はどんなふうに行っているかというと、写真のとおりです。
冬の津軽海峡に繰り出す漁船、ライフジャケットとハーネスを身に着け、命綱をつけた屈強なスタッフがスコップを振るってエサをまく。そんなイメージを持っていませんでしたか?

左のモニターが水中WEBカメラ、右がコントロール画面

実際は、ごく一般的なPCにバージ船操作用ソフトウェアをインストール、バージ船と陸上のオフィスをインターネットで繋ぎ、クリック一つでエサやり開始です。海上にも水中にもWebカメラがついているので、エサへの食いつきも一目瞭然です。左のモニターをサーモンが泳いでいるのが見えますね。

専用のソフトウェアをクリックすればエサやりが開始。あげた餌の量も、その日の水温も全て記録されます。
 
つまり、ここで「バージ船」と呼んでいるのは、エサの貯蔵庫(胴体)と各いけすへのエサ送り出し装置(手足)だけでなく、Webカメラや水温計などのセンサー(目と感覚器)、そしてそれらを統合して命令を出す操作用ソフトウェア(頭脳)がセットになった、統合パッケージのことなんです。

③適量のエサやりができる

Webカメラは、いけすの網底にも動かせます。エサをまくと、どんどんサーモンが食いつく姿が見えますが、満腹になると食いつかずに、海底に向かって(=カメラに向かって)餌が落ちていきます。

いけすの網底からの写真。これはWebカメラの映像ではなく、ダイバーが潜って撮影しています

つまり、Webカメラで食いつきを見ていれば、余分なエサをまかなくて済む、ということです。余分なエサまきは、購入したエサの無駄になるばかりでなく、近くに住む魚のエサにもなってしまいます。いけすがない状態と同じ自然環境を保つためにも、こういったモニタリングはとても大事です。

成魚用のエサ。
圧縮空気で送り込んでも割れず、サーモンが食べても消化にいい
ちょうどいい硬さにするのが大事なんだそう

過去のエサやりデータを蓄積しているので、同じ時期や水温でまいたエサの量や水温などと照らし合わせて、その日に食べるエサの量をある程度予測もしています。理論値と実際の映像の両方があれば、エサやりの精度はかなり上がります。

④少ない人手で、誰でもエサやりができる

わたしたちのバージ船の能力では、最大で16個のいけすにホースを繋ぎ、エサをまくことが可能です。船にエサを積んで、運転してそれぞれのいけすにエサを持っていって、人力でエサをまくことと比べると、一人あたりの生産性は爆上がりです。
日々のエサやりは、PCを使ってオフィスでできる作業に変わりました。その結果、例えば体力が回復しきらない産休明けの女性でも、海上で意思疎通が安全に直結する船上作業でもないため、外国人でも操作業務を行うことができます。
属人的・ワンオペになりにくい業務に大きく変化したエサやり作業。バージ船の魅力はココにもあります。 

⑤スタッフを危険にさらさない

バージ船が導入される前なら、多少海が荒れていてもエサやりのために出航することもありましたし、海上での作業は常に危険と隣り合わせです。ましてや、冬の海水温は10℃を下回るため、落ちたら大変です。もしも、いけすと船の間に挟まれようものなら大ケガに繋がります。
 
バージ船へのエサの補給など、海上での業務が全てなくなることはありませんが、そもそも海に出る仕事が減れば、危険性もぐっと減らせます。

⑥自動で記録が取れる


ITテクノロジーは、人力で行うよりも多地点・高頻度での計測を可能にしました。多くの状況を数値化し、記録を蓄積することができます。
バージ船と接続した給餌システムでは、それぞれのいけすに送りこんだエサの量はもちろん、海水温、気温、はたまた画像認識でサーモンの各個体の推測体長から重量まで、あらゆるデータを取り続けています。

デメリット

デメリット
いいことずくめのバージ船ですが、デメリットもお伝えしないとフェアじゃないですよね。それではバージ船のよくないところ、ですが
 
値段が高い
 
以上です。

日本「初」導入の挑戦 IT化する養殖事業

サーモンを育てるための設備としてはバージ船、なかなか勇気のいるお値段だったそうです。ただ、導入のハードルは費用だけではありませんでした。

いけすを上空・真上から撮影

養殖先進国と日本では気候状況が違います。彼の地には気温35℃を超える猛暑日はないし、台風もやってきません。導入の際、一番参考にしたわたしたちのグループ企業の養殖場があるデンマークの海とは、塩分濃度も違います。(バルト海は、海峡を挟んで大西洋から隔離されているので、川から流れ込む淡水の分だけ、塩分濃度が低いです)
 
そんな中、北欧生まれのバージ船が日本で同じように活躍できる保証なんて、導入当初はどこにもありません。二度目のお伝えになりますが、わたしたちは、日本ではじめてバージ船を導入しました。
 
が、ここでも言語の壁を乗り越え、気候風土に合わせた運用を作り上げたスタッフの知恵と日々の改善にただただ頭が下がる思いです。

日本初の設備投資だらけのサーモン養殖事業ですが、新たな挑戦にあふれる職場でもあります。
おそらくみなさんが「漁業」という言葉のイメージに反する省力化・IT化をご覧いただけたのではないでしょうか。

毎度のご案内ですが、スタッフ募集、行っていますのでぜひリンクをご覧ください!

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