青森サーモン®養殖ダイアリー⑧ 「サーモン水揚げが終わった養殖スタッフは何をしているのか」問題 その3
オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、サーモン養殖事業にスポットをあてて、四季折々のイベントを追いかける「青森サーモン® 養殖ダイアリー」。
思ったより長編になりそうな予感がしてきました。養殖メンバーがいまやっていることは、それだけたくさんあるということでもあります。なかなか普段目にすることのない作業だと思うので、飽きずに読んでいただけるとうれしいです。
「いけすの掃除」編です
前回お伝えしたグリッドロープと同じく、海の生き物にとっては、海面に浮いている物体は格好の棲み家となります。が、いけすにいるサーモンとわたしたちの養殖メンバーにとっては、定住してもらうと色々と妨げになることがあります。今回もその説明を尽くしてみます。
※今回は主に手順のご紹介となるので、付着する生き物については省いて話が進みます。付着する生き物については、前回記事をご覧ください
流れ着くタイプについて
いけすの妨げになる生き物付着のパターンとしては、
①漂着したり、漁船で曳航したいけすにひっかかる
②棲み家として固着する
の2通りがあります。まずは①の掃除についてお伝えしましょう。貝や魚は引っかかることがない、もしくは逃げるので、
①のパターンでは海藻とゴミが打ち寄せます。
①漂着タイプについて
海藻
地上の植物同様、海水温が上がる春から夏は、海藻にとっても成長・繁茂の時期です。大きく成長した海藻が、何かの拍子に付着した場所から離れると、海面に浮いて漂い続けます。こういった海藻がいけすの網にひっかかることがよくあります。具体的には、みなさんご存知のワカメ・コンブ・ホンダワラです。北の海っぽいでしょう?
ホンダワラは、この名前のままあまり食卓に上らないので、おなじみ感が薄いでしょうか?では、おなじホンダワラの仲間のアカモク(またはギバサ)と呼ばれる海藻であればご存知でしょうか。
津軽海峡付近では、成熟する夏を迎えると、メカブのように粘りが出ます。茹でてから刻んで食べます。
写真は、いけすを曳航した際に網に引っかかったホンダワラを外している作業。もっさり。とある日のごく一部なので、引き上げる作業量はこんなものじゃありません。水揚げシーズン中はこの作業が延々と発生します。
家庭でも、掃除とひとことで言っても、その裏には細々とした多くの作業があり、「名もなき家事」と呼ばれていますよね。養殖メンバーにはサーモンを水揚げする以外にも、こういった「名もなき家事」的作業、いわゆる「名もなき養殖」がたくさんあるのです。家事と同じようにこういった日々の地道なメンテナンス作業がついて回ります。
ゴミ 主にプラスチックゴミ
特に台風の後などに、波打ち際に多くのプラごみが打ち上げられている光景は、みなさんもご覧になったことがあるかと思います。当然、いけすにもペットボトルをはじめ、プラごみは引っかかります。サーモンのためにも、海を借りて養殖を行っている事業者としても、そのまま放置はできません。
これらプラごみは、放置すれば腐食しないためさらに浮遊を続け、細かく砕かれていった結果「マイクロプラスチック」になります。わたしたちの養殖場での回収だけでは微力ではありますが、こういった現象を少しでも食い止めるためにも、発見次第回収し港で集めて、産業廃棄物として委託先に引き取っていただいています。
もちろんこれらは、水揚げ中であっても、普段のメンテナンスとして行っている掃除です。網に引っかかった海藻やゴミは、水揚げ前のサーモンたちに必要な「酸素を多く含んだ海水」の流れを邪魔します。生育にも関わるので、速やかに取り除きます。プラごみについては言うまでもなく「見つけたら即回収」です。次見つけた時に、では海はきれいになりません。
①固着した生き物の掃除
さて、ようやく本題の「水揚げ後」の掃除に話を移します。いけすは大きく分けると2つのパーツで構成されています。
円形のいけすの枠部分と、網です。
形状が違うので、掃除の方法も別です。ここでは分けて、まずは魚網から説明します。
網揚げ
実は中の人も、いけすにサーモンがいなくなった水揚げ後も、網はそのまま海にあるのだと思っていました。実際には、水揚げが終わり次第、網は取り外します。掃除・洗浄した後、別の場所に保管しています。
考えてみれば確かに、塩水にも紫外線にもさらされる海中にそのままにしておくよりも、いい保管方法はありそうです。海から設備の一部を引き上げることで、台風など自然災害のリスクも減らせます。では見てみましょう。
枠に網を固定したロープをすべて外す
養殖だけでなく天然漁獲の漁業も含め、漁師の作業で必ずついて回るのがロープワークです。
いけすと魚網、いけす同士、いけすの接岸、作業の際には作業船といけす、帰港すれば接岸と、ほぼ全ての固定はロープで行っています。わたしたちの養殖メンバーとして着任すると、最初に覚えるのもロープワーク。絶対にほどけない「もやい結び」や、固定しやすいけど外しやすい結び方など、まずは5種類ほどの結び方を覚えるそうです。
いけす枠と魚網についても、数十箇所のロープで結びつけています。これらを外すところから作業は始まります。
海から引き上げて、大まかな掃除
全てのロープを外したら、作業船に設置してあるクレーンで引き上げます。クレーンの先には滑車がついていて、クレーンの隣にある巻き上げ機(ウインチ)で引っ張っていきます。徐々に引き上げつつ、海藻などの付着物を大まかに外しておきます。
余談:養殖メンバーは資格ゲッター
サーモン養殖だけではなく、他の会社も含め養殖スタッフは、多くの資格を取得しています。今日ここまでの作業内容だけでも
・船舶免許
・クレーン作業
・ウインチ(巻き上げ機)操作
・玉掛け(クレーンに、吊り上げる荷物や道具を取り付ける)
など、資格・免許・事前講習の受講などが必要な作業が山盛りです。
それではわたしたちの養殖メンバー、どのくらいの資格免許をもっているのか、一覧でご覧いただきましょう。おそらく養殖業務を行うスタッフとしては一般的な内容のはずです。
他にも記載してない資格免許(ドローン操作など)もありますが、一覧化してあるものだけでこれです。養殖メンバー達は「普通っす」と思っているフシがありますが、社内のほか事業メンバーや業界外の方から見れば「すげー」ってなるヤツです。閑話休題。
天日干しからの洗浄
引き上げて大まかな掃除ができたら、いけすの外周部分に魚網を乗せていきます。ここから2週間ほど「天日干し」を行うためです。
大きな付着物は手作業で取れたとしても、魚網のロープそれぞれに固着した細かい海藻を取ることはできません。陸上で保管するにあたり、これらを放っておくと当然腐敗します。網へのダメージも、ニオイ発生も起こりますので、できるだけ取り除きたいところです。
天日干しをすると、付着した海藻や生き物が干上がります。網自体も、紫外線にさらされて、海の中にあったときよりも白くなります。
次は、水洗いです。先程の滑車で吊るした網に向かって、消防車の噴射機に似たポンプとホースを使って、網の両側から水をあてて乾いて組織が弱くなった海藻などを吹き飛ばします。
このあとさらに干し、水分も蒸発して移動・保管しやすい状態になったところで船に積み、港の保管場所へもっていきます。
さらにこのあと、補修をしてくれる製網会社に預けて、次に網を海に下ろす11月まで保管してもらいます。
いけす枠の掃除
いけすの枠については、前回お伝えしたグリッドロープ同様、ムール貝をはじめとした固着生物がいます。こちらも、いけすの自重を増やしてしまうので、取り除く必要があります。
海上から見える部分についてはいけすの上から外しますが、水没している場所(ここにこそたくさん住み着いています)は、養殖メンバーが海に入り、いけすの裏の掃除を行います。これができるのも、網を外した水揚げ後ならではの作業です。
夏に行う作業ということもあり、エアタンクを背負った本格的な装備ではなく、ウエットスーツとシュノーケルの軽装で行います。大事なのは、できるだけいけすの上から掃除を行い、水中作業はなるべく減らすこと。
あたり前のことですが、人間は陸上の生き物・肺呼吸です。酸素供給ができるかできないかで、トラブルが起こったときの危険度・緊急度は大きく変わります。そのため、水中より陸上の作業のほうがはるかに安全なのです。
名もなき、知られてない掃除・メンテナンス
前回・今回と、いけすの掃除のお話になりましたが、思っていたより
・養殖場は広く
・その結果メンテナンス・掃除に膨大な手間ひまがかかる
・養殖メンバーは、効率化のために必要な資格免許を多数取得している
ことがご理解いただけましたでしょうか。メンテナンスの話は一旦こちらで終了。次回は来期に向けた準備についてお話しします。
しばらく掲載していませんでしたが、オカムラ食品工業の養殖事業グループ会社 日本サーモンファームでは、サーモン養殖事業を一緒に行うスタッフを募集中です!詳細はリンクをご覧ください。
※日本サーモンファームは健康経営優良法人(中小規模法人部門)2024に認定されました