見出し画像

すじこ(筋子)を知るための50のこと④26-36

オカムラ食品工業が手掛ける養殖・調達・加工・販売の4つの垂直統合事業のうち、話題を、国内の食品加工事業に絞ります。さらに絞って、テーマは「すじこ」。

後半戦となる第4回は「工場潜入編」です。
WEB上にあまたアップされているすじこコンテンツの中でも、わたしたちすじこメーカーでしか実現できないのは「工場潜入」。こんな特権を活用しない手はありません。

では、さっそくまいりましょう。今回も、わたしたちが作っているすじこに絞って話を進めていくため、すじこ業界全体からするとかたよった内容になってしまうかもしれませんが、共通している内容もありますのでご容赦ください。

注釈:このシリーズでは、調味加工を施した食品を「すじこ」と、サケ類から取り出したまま(=調味加工前)の魚卵は「腹子(はらこ)」と呼びます


㉖すじこの製造工程は基本的に非加熱です

工場に潜入し、いろんな現場のことを説明する前に、まずは前提として。

第1回で基礎の基礎としてお伝えしたとおり、すじこ・いくらはサケ類の卵巣・卵を加工しています。

すじこもいくらも、原料となる腹子を調味料に漬け込んだ食品です。調味液については、製造段階で加熱しますが、その後、熱を取ってから原料と混ぜます。腹子には殺菌のための加熱工程がありません。

㉗家庭用のレシピもあるにはあるけど、イクラほどじゃない

調味料に漬け込むだけ、という簡易さもあり、日本でサケ類の旬の時期となる秋口以降、ご家庭で特にいくらのしょうゆ漬けを自家製する方もいらっしゃると思います。

WEBでググってみると、いくらについては家庭用の調理法・レシピをたくさん見ることができます。が、すじこについての検索結果はイクラほど多くはありません。おそらく理由は2つあります。

ひとつには、卵巣のかたまりのまま調味液を浸透させる手順が、粒ごとに調味ができるいくらに比べて難易度が高いことではないかと思います。さらに難易度で言えば、卵巣についている血管から血抜きを行うなど、漬け込む前に行う下処理の多さも、自家製すじこへの道を遠ざける理由になっているように感じます。

もうひとつは、すじこがローカルフードであることでしょう。そもそも、すじこを食べるエリアが限定している中で、さらに自家製を試みる人口が少ないことも原因だと思われます。

㉘工場に潜入、の前に衛生対策!

ではようやく、工場に入りましょう、の前に。

わたしたちの工場では水産加工品を取り扱うため、いくらやすじこだけでなく、サーモンやカズノコなど、非加熱調理の商品ばかりです。このため、すじこだけでなく工場すべての入場に対して、万全の衛生対策を取る必要があります。

※ちなみに中の人は、ここ1年ほどでパン工場と水産加工工場に入りましたが、衛生対策は、おおむね同じ手順でした。

まずは異物混入対策です。英語ではコンタミネーション。略して「コンタミ」などと、したり顔でのたまえられれば、あなたも立派な食品業界人。

ざっくりと手順をご紹介すると
・工場専用服・キャップ・マスクの着用
髪の毛をはじめ、スタッフから混入物が入らないように全身を覆います。

工場内の作業着はこんな感じです。目以外のすべてを覆い、混入物を防ぎます

その後、
・衣服の付着物を粘着ローラーで除去
着用前と着用後、2回行います。入念です。

㉙特に手洗い・手の殺菌が重要です

すべての身体の箇所で一番入念な洗浄殺菌を行うのは手です。

手以外の部位は、能動的に何かに触れる機会はあまりありませんが、手は意思をもって作業をする部位です。人と人の間でも、手での接点が多いことも、公衆衛生の基本は「手洗い」と言われる所以ですね。

写真左でスマホを見ている人は、壁に貼ってある手洗いの手順に沿って洗っているかどうかをチェックしています。
人は、誰かに見られていると、ルール通りの手順を守るものです。わざわざ人件費をかけてでも衛生管理をおざなりにしない工夫がここにあります。

ちなみに、わたしたちの工場に入る前には、おおむね厚生労働省推奨方法を最低限とし、独自の洗浄工程をプラスして、衛生対策としています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf

ではあらためて、工場潜入です。


㉚製造工程はこんな感じです

前回の記事でお伝えしたとおり、私達がいま作っているすじこのすべての原料が海外産です。このため、凍結した原料の搬入から始まります。アニサキスの心配はありませんね。

ざっくりと工程を先に書いてしまうと、
・調味液を作る
・原料を解凍する
・原料と調味液を混ぜ、味付けする
・熟成
・等級分け・梱包・凍結
となります。では順を追ってご説明していきましょう。

㉛調味液を作る

しょうゆなどの調味料・糖類を混ぜて作っています。
材料や分量は当然ながら企業秘密です。レシピをここで書いたら、工場メンバーに袋叩きどころじゃすみません。
材料を釜に入れて加熱したあと、翌日まで冷まして寝かせます。すじこと合わせる前にも一晩寝かせて、味が馴染むのに時間に仕事をしてもらいます。調味液とすじこ・アイディア・こども園の園児など、ものごとには一定の寝かせる時間が大事です。笑点みたいですね。 

㉜原料の腹子を解凍します

家庭で作っても工場で作ってもおおまかな工程は同じです。が、そこはプロ。やり方は異なります。とくとご覧ください。まずは冷凍庫から出してから・・・

と、ここから写真などお見せして詳細をお伝えしたいのですが、以降しばらくの工程は写真もないですし、すっごくふわっとした説明になります。
なぜか。企業秘密だらけなのです。これこそ食品製造のキモとなるので、なかなかお伝えできないのです。

詳細は言えないのですが、それじゃあ潜入でもなんでもないじゃん、となるので、このくらいは。
解凍前の原料は、ブロック状になっています。巨大なまな板をイメージしていただけるといいです。とはいえ、一番薄いところでも15cm以上あります。

工程上大事にしているのは、均等に解凍されること。
解凍状態にバラつきがあると、品質にもバラつきが反映してしまいます。差をなくすための方法を様々に考えて今の方法が編み出されたそうです。
具体的な方法については・・・想像してください!ごめんやで!

㉝原料の下処理をします

解凍・下処理後の次の工程、調味液への漬け込み前に、原料がベストな状態で次の作業を迎えることが大事です。そのため、下処理として2点を行っています。

ひとつめは血抜きです。
あらゆる動物性食材に共通しているのは、「内蔵・血液は品質の劣化が早い」ということ。そして品質の劣化からも起こる、いわゆる「生臭さ」の発生源にもなります。

このため、腹子に残った「血抜き」が大事な作業となります。とはいえ、自家製でやるような、爪楊枝で血管をほじくり出す、なんてやっていたら、販売価格は今の倍では済まなくなるでしょう。大量に、効率的に血抜きを行う方法を長年の経験から編み出しています。が、これも企業秘密・・・

もうひとつは、雑菌の増殖を起こさないこと。
お伝えした通り、加熱工程のない商品だけに、製造中の雑菌繁殖は厳禁です。なるべく菌高(きんだか)の状態を作らないよう、細心の注意を払っています。方法については、これまた企業秘密でして・・・
 
※菌高って、この会社に来てからはじめて聞いたんですよね。ググってもあまり出てこないので、我が社独特の用語なのかなーと思ってました

㉞調味→熟成させます

ここもまたもや企業秘密の壁が高くそびえます。下処理した腹子に味付けを行う調味工程についても、詳細も写真もお伝えすることができないんです。くー、ほんと歯がゆいです。

さあ、調味工程が終わりました。ようやく写真が出せます!

調味工程が終わって、水切りを行っているすじこ。大量です


これは、熟成前の工程です。すじこをきれいに箱に並べている工程です。熟成具合にバラつきがないように行っているのかと思いきや、熟成後の後工程となる「選別」を行いやすくするためのことだそうです。気遣いを感じますね。

その後、熟成庫で寝かせます。わたしたちの工場には専用の「熟成室」なるものがあります。

熟成庫。低温です。

日本酒でもパンでも、酵母を使った食品にも低温熟成という方法がありますが、すじこは発酵食品ではないのでこれとは関係はありません。が、低温で熟成させることで、食材と塩味の味のなじみを良くする、「かど」が取れた状態を作るのが目的です。なので、たとえとしてはパンではなく「ひと晩寝かせたカレーがおいしくなる」アレに近いかもしれません。

わたしたちのすじこは一晩寝かせるのが特徴です。いわゆる「一夜漬け」です。学生さんの事前勉強と違い、すじこは一晩寝かせることでぐっと実力を増すのです。まあ、そういう人もいるかも知れませんが。

㉟選別します

翌日になって、熟成庫から運び出されたすじこです。ご飯何杯分、おにぎり何個分なんだろう・・・



このすじこを形状・状態によって4つに分類します。形状で2つ、状態で3つに分かれます。まずは形状から。
①一本子
卵巣の形のまま、製造工程で崩れることなく完成したすじこです。
②切れ子
辛子明太子にもありますね。卵巣の形から形状が崩れてしまっているすじこです。価格は少し落ちますが、味には①と全く変わりはありません。

そして①②ともに、3つの状態に分類します。
A 黒子
主に鉄分が酸化することによって、色が黒ずんでいるすじこが混じっています。黒子(くろこ)といいます。ご存知の通り、鉄分は血液に関係するので、下処理の時点で血抜きを上手に行うと黒子の発生が減らせるそうです。日本人は色味に厳しいこともあり、別グレードとして出荷します。味は一緒なんですけどね・・・

B ソフト
すじこの卵膜がしっかりしているため、噛んだときの口溶けがあまり良くないすじこも混ざっています。わたしたちの工場では「ソフト」と呼んでいます。こちらも商品としては期待される食感ではないため別グレードとして出荷します。

左の箱が「黒子」、真ん中の箱が「ソフト」、右の箱が切れ子です。
切れ子は光の都合で黒っぽく見えますが、すべて出荷可能な品質です

のこったC 良品が、一本すじこ・切れ子として出荷される商品となります。

㊱ようやく出荷します

ようやくここで、決められた企画のケースで計量してその後冷凍し、出荷となります。

計量ルームです

解凍・下処理・調味の工程でお伝えできないことが多くすみません。でもこの3つの工程を50年間磨き続けてきたからこその、わたしたちのすじこです。

工場スタッフにきいたところ、調味液のレシピはこれまでに何度となく改良されています。具体的には、おいしさや、時代に合わせた減塩などです。わたしたちの商品の中には海の生態系を壊さずに収獲する認証原料の商品などもあります。

製造工程についても何度も見直し、いまもなお改善が続いています。お見せできませんが。お見せできないのですが、大人が何十年も改善を続けた工場設備、本当にすごいです。衛生・製造効率・より美味しく。すじこも時代とともに、どんどん進化しています。

最後に、これを読んですじこが食べたくなったあなた、購入については下記リンクからお願いします。


この記事が参加している募集